「サイドステップ!サイドステップ! 動きは全部サイドステップですよ。はい,軸足を決めて,踏み込む!」
小気味よい声が絶え間なくコートに響く。球出しをしているのは,ジュニアテニスの強化を担当している斎藤美穂コーチ,習っているのは女性テニスの面々だ(男子も一人いましたけどね)。春一番の練習。2列に並べた生徒たちに次々と的確に球出しを続けていく。
「私,コーチのプロですから,2つ同時に球出しをできます」といいながら,つねに生徒たちの動きを見守る。学校の先生の中にも「私,教えるのプロですから」といって,生徒をよく見守ることができる人はどれくらいいるのだろう。津幡ジュニアの秘密は,コーチがコーチであることへの誇りを持っていることではないか,と思われてくる。
「軸足はどっち? 踏み込んだのはどっちの足? 踏み込んで打ったらどうするの?」
ここでコーチの球出しが止む。踏み込んだら踏み込んだ足が前に出ていますね。そこから少しジャンプするようにして,両足をネットの平行な位置に直します。これはユニットターンといいます。これによって,一瞬で次のサイドステップができる態勢ができるのです」
「いいですね。足で打ちます。しっかり振って! 途中で止めたらスイングといいませんよ。きちんと振り切らないと相手の死んだ球に対応できませんよ。」 確かに,ホワっとした遅い球を打つのが苦手という人は多い。無理に打つとアウトしてしまいそうで,当てるだけになってしまう。それをしっかり打つには,足を踏み込んで,振り切ることだと斎藤コーチはいうのだ。
こうして2時間,ボレーにスマッシュが続いていく。今年の最初の練習としては盛りだくさんだ。
「月に1回ぐらい。1時からこの練習をしようと思います。」
津幡町の練習は土曜日と日曜日の1時から。集まった人が体育館に使用願いを出し,ボールなどを揃えておく。会員は必ず参加すること,みたいな強制は一切ない。今日は練習しようかなと思う人が集まるだけだ。遅れて参加する人がいてもペナルティなどない。
このシステムはとても好ましい。いってみれば理想の形態だ。しかしこれを続けていくのに一番大切なことは「必ず1時に来てくれる人がいる」という当たり前のことだ。「みんな少しくらい遅れてもいいや」と思ったら,そして,誰も1時に来る人がいなかったら,コートを確保する権利はなくなってしまう。そして,そういう物理的なことより大切なことは,「そこに行けば必ず練習できる」という安心感なのである。
斎藤コーチがあえて女子テニスのコーチングを引き受けたのは,そのことを思い出して欲しかったからだという。月に一度でも1時から練習会がある。そのことが,「いつも1時には集まろうね」という気持ちを育てていくのではないか。 そして,そのことは,ストロークのフットワークが欲なり,ボレーのコースを打ち分けられるようになり,自信を持ってスマッシュを打てるようになることより,ずっと大切なことなのである。斎藤コーチはやはりプロのコーチなのだな,と思わせる1日だった。
翌19日はジュニアテニス教室の小学6年生と中学3年生の卒業式があった。やがて中学生になれば,学校の部活動をどうするのかという問題がある。そして中学校を卒業すれば,これまでの教室とはしばらくお別れだ。テニスに夢中になる者も,まったくラケットを握らなくなる者もいるのだろう。どの道を行くにせよ,それは自分で選ばなければならない。
何もできなかった自分たちにテニスを教えてくれたコーチたち。テニスが大好きなコーチたちの素敵な笑顔。
これだけはいつまでも覚えておいてほしい。心からそう思う。