津幡町テニス協会

2018/11/11掲載

第14回つばたジュニアオープン

うちに泊まってく?

 10月6日朝7時。今年のつばたジュニアオープンの初日。早い選手の親子たちは練習開始時間の7時半を待ちきれずに、石川県内を中心に各地からテニスコートに集まってくる。自然と声をかけたくなる。
 「どこから来たのですか?」
 「長野からです」
 「こんなに朝早く?」
 「昨日から。この車で泊まりました」

 なに?これに驚かないことがあろうか。そのとき、斉藤コーチがコートに降り立った。この方たち、車に泊まったんだって。そのとき、斉藤コーチはすかさずこう言った。
 「今夜、うちに泊まってく?」
 え?これにはさっきの10倍ほどの驚きだった。迷いをみじんも感じさせない、鮮やかな切り返しは一体何なのだ。僕の狼狽をよそに、斉藤さんは振り返りもせずに大会準備に向かっていった。
 津幡の大会は温かい。ジュニアの大会だけでなく、そういう話は参加してくれた方から何回も聞いた。そのルーツは、もしかたら斉藤さんの心から湧き出たものにあったのかもしれない。

ここから巣立っていくジュニアたち

 つばたジュニアオープンは今年で第14回を迎える。プログラムには全国小学生テニス選手権、全国選抜ジュニアの優勝杯を勝ち取った玄田夏楠選手のほか、各地で活躍している選手たちの名前が並ぶ。「ざっと見るだけでも、現在開催中の福井国体に出場している選手を9名見つけ出せます。この子は○○県の代表ですね,この子は○○県のナンバーワンです」と、前田猛夫コーチは次々に名前を挙げていく。彼には、すべての優勝者・準優勝者のことが頭に刻まれているかのようである。おそらくそのプレイスタイルも。弱点でさえも。自分が育てた選手が敗れたとき「相手は軟投型とでもいうような、対戦相手の力をうまく利用して反撃してくるミスの少ない選手です。前後左右に的確に打ち分けるストローク力があります。津幡の選手は健闘したと思います。最初は相手のミスに助けられましたが、力はだいぶ差がありました」と分析した。彼の「選手を見る目、分析する力」がコーチングに生かされていくのだろう。

 この大会は小学4年生以下の部、小学5・6年生の部、中学生の部と、年齢ではなく学年でクラスを分けている。そのために県のランキングポイントはつかない。「年齢の狭間でちょうどいいクラスに出場できない選手たちには嬉しい大会となります。むしろ練習マッチとしての役割を果たしているのですが、その意味ではリニューアルの時期を迎えているかもしれない」と前田さんは言う。
 現在は確かに北信越各市町村協会でもジュニアの大会が増えている。初めての試合はどうあるべきか、県トップを狙い、更には北信越から全国を狙う子どもたちにはどんな大会を準備すればいいのか。どこが何を分担するのかなど、市町村の垣根を越えて、今後の方針を話し合う時期が来ていると思われる。かつてビヨンボルグが全盛であった頃、スウェーデンには全国のどこのコートに行っても同じレベルのコーチングが受けられるシステムが確立されたという。そしてエドベリやビランデルなどの名選手を生み出した。そのシステムをまとめていく人材が、いまの石川県に望まれているのではないだろうか。TTCの吉田宗弘さんの「北信越にもテニストレーニングセンターが必要だ」という話が頭をよぎった。

大会準備,そして開会式

 運営スタッフの集合時間の7時半より前に斉藤さんが書類の束を持ってやってくる。前田さんは賞品の箱を車から降ろす。舟橋さん、富田さん、中田さん、中山さん、杉本さんらが素早くテント設営の準備に入る。膝を痛めている西さんや北田さんもロービングアンパイアのために駆けつけてくれた。ジュニア卒業生の村田優里さんの顔も見える。本部に入る本吉さん、中村さん、亀田さんはすでに椅子や机の準備を済ませている。
 津幡ジュニアは一般協会員の活動と密接な関係がある。ほとんど全ての町開催の大会は、ジュニアからシニアまで同じコートに立つ。これは40周年に掲げた「三世代交流」の基礎となっている。通常練習のボールも共有している。

 開会式は前田大会長の挨拶に始まる。「みなさんの先輩の中には、福井国体に参加している先輩が大勢います。その方たちを目指して、頑張ってください」。

 ロービングに協力してくれる協会員は15、6名ほど。それをまとめるのが吉本律子津幡町テニス協会長である。ロービングの注意点を説明し、レフェリーとして大会の開会式に臨む。参加したジュニアたちに向かって「試合を始める時には、まずお互いの名前を言って握手します。それからトス(コイン投げ)をします。これが国際基準です。みなさんも、それにならいましょう。」と言い、そして,開会式の最後にジュニア憲章を朗読する。いつも自画自賛して恐縮なのだが、こういう志の高い大会は他にはないではないか。

津幡ジュニアの個性的なコーチたち

 協会長でもある吉本コーチは不思議な人だといつも思う。まず、普通の会社員である。そして4世代大家族の主婦でもある。孫守りは吉本さんの仕事のようだ。そのような中、協会長という重責を背負い、週末は練習コートにやってくる。ダブルスを組むとき、吉本さんがペアを選ぶのを見たことがない。「ババは忙しいのよ」と言いながら、ジュニアのコーチングはもう20年を超える。「ほとんど最初からジュニアに携わっています。私の子どもたち2人が一期生です。テニスが好きなんだと思います。それから、子どもが好きなんですね。コーチングをしていて、テニスが好きな子が出てくるのが一番嬉しい。だから、年齢の若い子を教えている今のポジションが一番合っていると思ってます。でも、他にやりたいことはあるし、力の限り選手を育てるというのは向いていないのでしょうね。」 この日は中学生男子決勝の審判台に上がった。言い忘れていたのだが、この人、おしゃれにも余念がない。

 コーチにもいろいろなタイプがいる。寡黙でありながら要所を押さえていくタイプ、冗談を交えながら緊張をほぐしていくタイプ。そして、中田コーチはその「やさしさ」がベースとなっているようだ。コーチに加わったのは最近かと思っていたら、もう10年を超えていた。昨年までは年少のクラスを受け持っていたが、今年から選手として試合に出る子どもたちを担当するようになった。「ジュニアの子どもって二通りいると思うんですよ。もっと強くなって選手になりたいという子と、純粋にテニスを楽しみたいという子。そのどちらの気持ちも大切にしたいと思いますね。どちらを担当するかによってコーチが変わりますね。今は試合に出ている子を担当しているので、それぞれに応じた次の課題を探しながら試合を見るようになりました」。そういいながら、選手を見る目にもやさしさがあふれる。勝敗を報告に来る選手にも丁寧に対応する姿が印象的なコーチです。

 さて、話は冒頭に返って、斉藤コーチである。この人の嫌味のない性格には、誰しも「惚れてもうやろ」。年に何日ぐらいコートに立つかという質問には「年末年始以外、ですかね。お盆休みはありません」。現役時代は石川県に敵なしのダブルスプレーヤーでもあった。それをすっぱり止めてコーチに転身する時に、選手としての未練はなかったのだろうか。「全国レディースで3連覇したら、あと5年は出場権がなくなったんです。テニスを始めたときの目標だった県ダブルスランキング1位にもなりました。そのときにコーチになろうって思いました。決断は早いですよ。もう、今日のおかずなんて迷ったことありません」。斉藤家にはガットを張りに来たり、斉藤コーチの話を聞きに来たりするジュニアの選手がいつもやってくる。「家族には感謝してます。ほとんど家にいませんからね。誰を連れてきても文句を言われることはありません」。朝、うちに泊まる?と声をかけた長野からの親子は、夜に所用ができた斉藤コーチに代わって、ご主人が夕食を作ってくれたそうである。
 「誰でも選手になれるわけじゃないじゃないですか。そういう子は楽しんでくれればいい。ここを巣立っても、いつかまたテニスに出会うかもしれない。それでいいじゃないですか」と、こちらの方も歯切れがいい。
 この大会での斉藤コーチはとにかくよく動く。朝の準備から大会運営のアドバイス、各選手が正しいジャッジをしているかどうかは瞬時に見抜く。決勝戦に入る前に、コート整備をすると思ったら、線審やボールパーソンを集め、審判台に上がる。そのエネルギーには感心するばかりである。

戦い済んで

 大会はもちろん熱戦の連続である。
 ジュニアの育成に携わっていない私の目からは、子どもたちの大きな可能性に驚くばかりである。同時に、この津幡ジュニアに来て、テニスと出会い、コーチに教えを受ける子どもたちは幸せだなと思う。勝負に勝つ者と負ける者があるのは当然である。優勝者には心からの賛辞を送りたい。それと同じ言葉を、精一杯戦った選手たち全員にも送ろう。
 優勝スピーチもそれぞれに立派だった。指導してくれたコーチたち、大会運営をしてくれた方々、自分を支えてくれた保護者への感謝の言葉が続く。これからも頑張ろうという者、次の全国選抜に向けて欠点を直したいという者、決勝戦の独特の雰囲気に飲まれてしまったという者などなど。いずれにしても今後の健闘を見守りたい。

中学生男子 優勝 岩崎温夫 (大林TC)
準優勝 小寺稀介 (津幡Jr)
中学生女子 優勝 前田星佳 (津幡Jr)
準優勝 佐藤莉乃 (ATS)
小学5・6年男子 優勝 角谷 亮 (GETT)
準優勝 中山智裕 (津幡Jr)
小学5・6年女子 優勝 石田紗矢 (GETT)
準優勝 保志場美空 (TEAM KIT)
小学4年以下男子 優勝 上田 航 (ヤスマGTC)
準優勝 平野良真 (ウエストヒルズ)
小学4年以下女子 優勝 奥出彩帆 (今立TC)
準優勝 濱崎ちはる (津幡Jr)


 優勝,準優勝した選手たちも立派だが、その裏でいち早く賞状を書き上げるということもまた、間違えるわけにはいかないという大きなプレッシャーのかかる仕事である。それを毎回行うのが前田幸子さん。さぞかし肩の凝ったことであろうと思います。よい整体院にかかることをお勧めいたします。お疲れ様でした。

この日,一番幸せそうだった人

 私の個人的な感想で申し訳ない。最後に、この日一番幸せそうな表情をした人を紹介しておきたい。中学生女子で優勝した前田星佳さんのお父さんである。「自分は何もしていないのに、こんな幸せを味わっていいんだろうか」ですって! いい顔してますねえ。